日 時 | 2019年10月6日(日) 10:00~ |
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テーマ | 脳神経内科疾患の嚥下造影検査の読影 |
会 場 | 国立精神・神経医療研究センター 教育研修棟ユニバーサル・ホール |
会 費 | 5,000円 |
日 時 | 2019年10月6日(日) 10:00~ |
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会 場 | 国立精神・神経医療研究センター 教育研修棟ユニバーサル・ホール |
会 費 | 5,000円 |
< 第8回セミナー 脳神経内科疾患の嚥下造影検査の読影 >
国立精神・神経医療研究センター 嚥下障害リサーチセンター長
同 病院脳神経内科医長
難病嚥下研究会代表世話人
山本敏之
難病嚥下研究会第8回セミナーは「脳神経内科疾患の嚥下造影検査読影ワークショップ」と題し,嚥下造影検査を読影し,臨床に生かすことをテーマとしております.
嚥下のモデルは,1816年にMagendieが動物実験から,口腔期,咽頭期,食道期の3期モデルを構築したことに始まります.1895年にRöntgenがX線を発見すると,1927年にはMosherが世界初の,透視下での嚥下評価を行っています.当時の医用工学技術では十分な評価ができなかったのか,この報告には不正確な記載が散見されます.日本では,1937年に大塚宏が健常者4人の「バリウム粥」の嚥下を詳細に解析し,舌骨の動きや喉頭蓋の役割などについて書いています.今日からみても質の高い論文です.ただし,当時の検査は電気モーターの騒音の中,真っ暗闇で行われ,「(研究結果が)被検者ノ恐怖心或ハ危惧感等精神的興奮ノ影響ヲ被ルコト亦(また)多カラン」と考察されたほどでした.臨床検査として行われるようになるには,医用工学の進歩を待たねばなりませんでした.
1960年代以降,嚥下造影検査はシネフィルム撮影になり,1980年代以降はビデオ撮影が普及します.検査が簡便になり,健常者を対象とした嚥下研究が進みました.そして,ヒトの嚥下は3期モデルから4期モデルへと変わりました.この4期モデルは嚥下造影検査の知見から構築されており,通常とは違った嚥下を観察します.すなわち,被験者が造影剤を口に溜め,検者からの指示を待つ口腔準備期があります.1990年代になるとHiiemae
,Palmerが咀嚼を伴う食物の嚥下をプロセスモデルで説明しました.このモデルは日本を中心に多くの研究者に受け入れられました.
現在では,どの施設でも診療として嚥下造影検査が行われるようになり,神経筋疾患患者を検査する機会が増えました.今日のセミナーでは,神経変性疾患や筋疾患の嚥下造影検査を読影するワークショップです.正常の嚥下モデルをしっかり理解し異常所見を見落とさないこと,疾患に特徴的な所見を知ること,そして,嚥下造影検査の結果をその後の方針の決定に生かすことを目的としています.本日のセミナーで得た知識が,明日からの診療に生かせられれば幸いです.
< プログラム >
10:00~10:05 開会の言葉
10:05~10:25 第1講 正常の嚥下モデル(山本敏之)
10:25~10:50 第2講 嚥下造影検査における異常所見(山本敏之)
11:00~11:45 グループ演習① 嚥下造影検査の読影
12:00~12:45 第3講 重症筋無力症, 炎症性筋疾患, 筋萎縮性側索硬化症(山本敏之) ランチョンセミナー
13:00~13:30 グループ演習② 嚥下造影検査の読影
13:40~14:25 第4講 パーキンソン症候群(PD, PSP, MSA)(山本敏之)
14:35~15:05 グループ演習③ 症例検討
15:15~16:00 第5講 治療方針の設定(山本敏之)
16:00~16:05 閉会の言葉
< 概 要 >
グループ演習では嚥下造影検査の所見を多職種で読影しました.その後の講義で解説しました.
グループ演習①45分 嚥下造影検査の読影
1.正常の嚥下を比較する
健常 34歳女性①,②,健常72歳男性③,④
見るべきポイント:物性による嚥下の違い.年齢による嚥下の違い.
舌による送り込み運動,軟口蓋挙上のタイミング,舌骨の運動開始と食物の位置,食道入口部通過時の咽頭収縮の状態,
最大咽頭収縮時のバリウム陰影,喉頭蓋の動き,喉頭侵入・誤嚥の有無,舌骨が最大上前方位にあるときの咽頭,食道
の状態と食物の位置,嚥下の弛緩の順,嚥下後の咽頭残留.
2.異常所見の読影1
多発筋炎 79歳女性⑤.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚あり.
見るべきポイント:食道入口部開大不全と咽頭収縮力低下による誤嚥.不顕性誤嚥.Cricopharyngeal barの所見.
3.嚥下障害の比較1
重症筋無力症 58歳女性⑥~⑨.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚あり.
見るべきポイント:エドロフォニウム注射で筋力を改善させた場合の変化.液体の嚥下と固形物の嚥下での違い.
4.嚥下障害の比較2
筋萎縮性側索硬化症 63歳男性⑩,⑪.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚あり.
見るべきポイント:液体の嚥下と段階3とろみの嚥下での違い.口腔保持.早期咽頭流.
5.異常所見の読影2
筋萎縮性側索硬化症 73歳男性⑫.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚あり.
見るべきポイント:分割嚥下,咽頭収縮,舌骨の運動.
グループ演習②30分 嚥下造影検査の読影
1.嚥下障害の原因1
パーキンソン病H&Y分類Ⅲ度 75歳男性①,②.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚なし.運動低下性構音障害,小声のためコミュニケーション困難.
液体の嚥下:不顕性誤嚥,複数回嚥下.
固形物の嚥下:咀嚼の障害,喉頭蓋谷の残留.
2.嚥下障害の原因2
パーキンソン病H&Y分類Ⅱ度 69歳男性③,④.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚なし.
液体の嚥下:嚥下反射の惹起遅延.不顕性誤嚥.
コンビーフの嚥下:喉頭蓋谷の残留.
3.嚥下障害の原因3
進行性核上性麻痺 66歳男性⑤,⑥.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚あり.
液体の嚥下:嚥下前誤嚥.咳嗽反射の惹起あり.
コンビーフの嚥下:特記すべき異常なし.
4.異常所見の読影3
多系統萎縮症MSA-P 75歳女性⑦,⑧.日常生活動作自立.小脳性運動失調なし.食事は経口摂取.嚥下障害の自覚なし.
液体の嚥下:口腔に残留.
固形物の嚥下:咀嚼不良.上部食道に残留.
グループ演習③30分 症例検討
症例1 パーキンソン病 72歳男性 動画①,②
64歳,固形物を食べると,のどにひっかかることを自覚した.近医耳鼻咽喉科を受診し,異常ないと言われた.このころから歩行中に右足を引きずるようになった,
65歳,7月.左手のふるえに気づいた.前傾姿勢になった.歩行中の右足の出の悪さを自覚した.パーキンソン病と診断された.アマンタジンでふるえと足の運びは改善した.
68歳,ドパミンアゴニストを開始した.同じころ,食思不振で3か月で体重が57㎏から52㎏に減った.飲みこみにくさの悪化は自覚しなかった.
70歳,歩きづらさと肥大手の震えがあり,L-dopaを開始した.症状は改善した.
71歳,リハビリテーション目的に近医に入院.嚥下造影検査で食道入口部の開大不全を指摘された.バルーン拡張法を導入した.多少,飲みこみやすくなった.
72歳,当科を受診した.日常生活動作は自立し,Hoehn & Yahr分類2度であった.両側に筋強剛を認めた.左手に振戦を認めた.わずかにジスキネジアがあった.日内変動はなかった.体重51㎏,BMI
17.2.認知症なし.服薬は,レボドパカルビドパ 4錠 3x,アマンタジン100㎎2x,セレギリン2.5㎎1x,タムスロシン0.2㎎,クロナゼパム0.25㎎であった.
Q1. 異常所見はあるか?
Q2. 安全に経口摂取可能か?
Q3. どのような治療を検討するか?
症例2 筋萎縮性側索硬化症 72歳女性 動画③,④
72歳 3月,左下肢を動かしづらく,杖歩行になった.
6月,転倒し左橈骨遠位端骨折した.
8月,呂律が回らなくなった.歩行が困難になった.箸を持てなくなった.
10月,近医で筋萎縮性側索硬化症と診断された.%努力性肺活量(FVC) 44%だった.
11月,当科を受診した.車いす移動だった.経口摂取は可能だった.FVC 0.96L, %FVC 41.4%だった.身長 160㎝,体重 41.8㎏,BMI
16.3.認知症なし.
Q1. 異常所見はあるか?
Q2. 安全に経口摂取可能か?
Q3. どのような治療を検討するか?
症例3 多系統萎縮症MSA-P 58歳女性 動画⑤,⑥
50歳,左手の動かしにくさが出現した.
51歳,呂律が回りにくく,かつ小声になった.
54歳,左足の動かしにくさを自覚した.左手のふるえが出現した.
56歳,排尿後の残尿感を自覚した.パーキンソン病が疑われた,L-dopaの効果がなく中止になった.
57歳,当科受診.MSA-Pと診断された.杖を使わずに3㎞以上歩行でき,日常生活動作は自立していた.
58歳,立ち眩みが出現した.歩行が小刻みになり,歩ける距離が200mぐらいになった.飲みこみづらさが出現した.食事に2時間かかるようになったため,ミキサー食に変更した.それでも1時間かかるようになった.飲水量も減り膀胱炎を繰り返した.体重が1年で2㎏ぐらい減り,42㎏になった.BMI
17.8.
Q1. 異常所見はあるか?
Q2. 安全に経口摂取可能か?
Q3. どのような治療を検討するか?