第4回セミナー

日 時 2017年4月29日(土)
13:30~
テーマ パーキンソン病の摂食嚥下
会 場 国立精神・神経医療研究センター
教育研修棟ユニバーサル・ホール
会 費 2,000円
日 時 2017年4月29日(土) 13:30~
会 場 国立精神・神経医療研究センター 教育研修棟ユニバーサル・ホール
会 費 2,000円

< 第4回セミナー パーキンソン病の摂食嚥下 >

国立精神・神経医療研究センター病院神経内科
難病嚥下研究会代表世話人
山本敏之

 第4回セミナーは「パーキンソン病の摂食嚥下」をテーマに,パーキンソン病とその関連疾患の摂食嚥下を特集します.

 ギリシア神話では,スフィンクスが旅人に謎かけをして困らせていたそうです.
「一つの声をもちながら,朝には四つ足,昼には二本足,夜には三つ足で歩くものは何か?その生き物は全ての生き物の中で最も姿を変える」.
 若き日のオイディプス王はこう答えてスフィンクスを退治しました.
「答えは人間である.何となれば人間は幼年期には四つ足で歩き,青年期には二本足で歩き,老いては杖をついて三つ足で歩くからである」(Wikipediaより)

 パーキンソン病も経過中にさまざまな臨床像を呈します.発症早期は歩行に問題なく,やがて姿勢反射障害が現れ,進行期には杖や車いすが必要になり,最後は寝たきりになります.こうした症状の変化を反映したホーン・ヤール重症度分類が1967年に発表されてからは,パーキンソン病の重症度と合併症の関係が論じられるようになりました.その中で摂食嚥下障害は,ホーン・ヤール分類と相関しない合併症であることがわかっています.パーキンソン病の摂食嚥下障害を,早期に診断し,対処するのは大切なことです.
 第4回セミナーの講演1ではパーキンソン病とその関連疾患と摂食嚥下の特徴を解説します.講演2では歯科医の立場から,パーキンソン病やその関連疾患の歯科的な問題を解説します.講演3では,嚥下機能改善術や誤嚥防止術について,手術適応と術式,その効果を解説します.本セミナーによって,パーキンソン病とその関連疾患の理解が深まり,明日からの診療に生かせられれば幸いです.

< プログラム >

13: 30~13:35 開会の言葉 山本敏之(難病嚥下研究会代表世話人)

講 演: パーキンソン病の摂食嚥下
        座長 山本敏之(国立精神・神経医療研究センター病院 神経内科)
13:35~15:10 1. パーキンソン病とその関連疾患の病態と摂食嚥下障害
        山本敏之(国立精神・神経医療研究センター病院 神経内科)

15:10~15:15 協賛企業からのお知らせ

15:30~16:00 2. 歯科的問題
        福本 裕(国立精神・神経医療研究センター病院 歯科)

16:05~16:40 3. 嚥下障害に対する外科手術
        木村百合香(東京都保健医療公社荏原病院 耳鼻咽喉科)

16:40~16:45 閉会の言葉 木村百合香(難病嚥下研究会世話人)

< 概 要 >

講 演:パーキンソン病の摂食嚥下
1.パーキンソン病とその関連疾患の病態と摂食嚥下障害
 山本敏之(国立精神・神経医療研究センター病院 神経内科)
 パーキンソン病関連疾患とは振戦,筋強剛,無動寡動,立ち直り反射障害といったパーキンソニズムのうち,2つ以上の症状がみられる疾患の総称である.進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症などが該当する.これらの疾患はパーキンソン病やレビー小体型認知症と病理学的に異なる疾患であり,経過中に現れる症状や薬物による治療効果が異なる.
 パーキンソン病やレビー小体型認知症の嚥下造影検査では,無症候性誤嚥,嚥下後の咽頭残留,口腔から咽頭への送り込みの障害が多い.これらの異常は,誤嚥性肺炎,栄養障害,内服治療の障害の原因になりうる.進行性核上性麻痺は発症早期には誤嚥で咳が誘発されるが,運動症状が悪化すると咳嗽反射がなくなり,口腔から咽頭の食物の送り込みも悪くなる.そして,誤嚥性肺炎や栄養障害を合併する.多系統萎縮症は小脳性運動失調が目立つタイプと錐体外路症状が目立つタイプがある.経過とともに咀嚼や口腔から咽頭への送り込みが悪くなり,誤嚥性肺炎を繰り返す前から栄養障害が現れることが多い.
 パーキンソン症候群患者の嚥下障害は,障害の程度が軽ければ姿勢調整や食物形態の変更で対処し,経口摂取を継続できる.しかし,進行期には誤嚥性肺炎の繰り返しや栄養障害を呈する.経管栄養や胃瘻造設,誤嚥防止術を考慮する必要がある.

 

2.歯科的問題
 福本 裕(国立精神・神経医療研究センター病院 歯科)
 摂食嚥下は,便宜的に食物の移動に合わせて,認知期,咀嚼期,口腔期,咽頭期,食道期の5期に分けて説明される.口腔期からの嚥下の3期を基準にすると,咀嚼期は食物を口腔へ取り込み咀嚼することで嚥下に適した食塊を形成するため,準備期ともよばれる.
咀嚼は,歯牙,咀嚼筋,舌,口唇や頬,唾液腺,顎関節などの諸器官が複雑な神経機構により巧妙に調節され,協調して働くことで円滑に行われている.そのため,パーキンソン病やパーキンソン症候群の錐体外路症状は,食塊の形成や移送および咀嚼を障害することがある.
 今回,歯科的問題としてパーキンソン病の咀嚼障害について解説する.


3.嚥下障害に対する外科手術
 木村百合香(東京都保健医療公社荏原病院耳鼻咽喉科) 
 嚥下障害に対する外科手術は,嚥下機能改善術と誤嚥防止術に大別される.パーキンソン症候群における嚥下障害への対応の選択肢の一つとしてこれらの外科手術の存在を認識し,その内容を理解することが,手術適応を検討するのにあたっての第一歩となる.
 嚥下機能改善手術は,主に咽頭期の障害に対する解剖学的代償を目的とした手術である.輪状咽頭筋弛緩不全による食道入口部開大不全に対する輪状咽頭筋切断術,喉頭挙上不全に対する喉頭挙上術,声帯麻痺による声門閉鎖不全に対する声帯内方移動術,鼻咽腔閉鎖不全に対する咽頭弁形成術などがある.正常な嚥下運動機能を獲得できるわけではないため,術後の解剖学的構造に対応したリハビリテーションが必須となる.嚥下機能改善手術の適応には,1)咽喉頭の知覚が保たれており,誤嚥した場合も喀出できること,2)適切なリハビリテーションを行った後も嚥下障害が残存していること,3)ADLが保たれており,術後のリハビリテーションに意欲的に取り組めること,4)病態の主因が咽頭期の障害であること,があげられる.
 一方,誤嚥防止手術は,気道と食道を分離することにより,解剖学的に誤嚥を防止する手術である.口腔・咽喉頭は気道から分離されるため,一部の術式を除いて,音声は犠牲にせざるを得ない.気道と食道を分離するレベルにより,気管食道分離術,喉頭閉鎖術,喉頭摘出術などの術式に分類され,患者の全身状態や希望に応じて術式が選択される.誤嚥防止術の適応は,1)誤嚥による誤嚥性肺炎の反復がある,またはその危険性が高いこと,2)嚥下機能の回復が期待できないこと,3)構音機能や発声機能が高度に障害されていること,4)発声機能の喪失に納得していること,である.本術式は誤嚥を防止することが目的であり,経口摂取を担保する術式ではないが,誤嚥が消失することにより,経口摂取を回復する例も少なからずある.
 今回の講演では,自験例を提示しつつ,これらの外科的治療のパーキンソン症候群への適応について述べる.